選好と効用
消費者にとって、どのような選択が合理的であるといえるだろうか。
消費者が複数の選択肢の中から1つの財を選ぶ場合、通常は、機能や性能、価格、見た目、ブランド、周りの人の評判など複数の次元による比較を行っていると考えられる。また、特定の財をみても、ある人にとっては非常に価値の高いものであるかもしれないが、別の人にとっては何の役にも立たない価値の低いものであるかもしれない。つまり、個人によって必要とするものや満足感が得られるものは異なるため、財の違いだけではなく、消費者の違いによっても合理的な選択か否かは変わってくるということである。
選好
経済学では、個人が必要としているものや欲しいと思っている機能や性能、ブランドなどをまとめて「個人の好み」としている。この好みは1つの財では表現することができず、2つの財を比較することで表される。例えば「ご飯」単体では比較対象がないため好みは表現できないが、「ご飯」と「パン」の2つであれば「パンよりもご飯を好む」という表現ができる。
一般に「 よりも を好む」ということは「 よりも を選択することがより好ましい」わけだから、この場合は「 を選択することが合理的な選択である」といえる。
このように、2つの財を比較したときに表される個人の好みを選好と呼ぶ。厳密には「選択肢の集合上に定義される二項関係」となるので、単体の財である必要はなく、財の集合でも成り立つ。
選好が二項関係を表しているとはいえ、財が3つ以上の場合にも個人の財に対する好みを順序づけることはできる。例えば , , の3つの財がある場合、「 よりも を好む」「 よりも を好む」ことがわかっていれば「 よりも を好む」ことがわかる。
選好関係の表現
選好は という記号を使って「同等以上に好ましい」という表現が使われる。例えば「 よりも を好む」場合「」となり「 は に比べて同等以上に好ましい」といえる。
は、数学の等号付き不等号( , )と同じように、 と を組み合わせたものなので、これらの記号を用いて表すことはできる。 は「 と は無差別である」と定義され、 は「 は と比べてより好ましい」と定義される。
ただし、以下のように だけでこれらを表現できるため、実際には の記号が用いられることが多い。また、選好関係という場合、通常は を指す。
- は、「 と の両方が成り立つ」ことである。
- は、「 だが ではない」ことである。
順序づけできる条件
選好とは、個人の好みによって対象となる財の順序づけを行うことに他ならない。首尾一貫した順序づけを行うには、少なくとも以下の3つの条件が必要になる。なお、ここでは比較対象となる全体の集合を とし、集合に含まれる財を , , としている。
- に含まれるすべての と に対し、 か の少なくとも一方が成り立つ(完備性)
- に含まれるすべての に対して である(反射性)
- に含まれるすべての , , に対し、 かつ なら が成り立つ(推移性)
1つ目の完備性は、2つの財が比較可能であることを示している。 か のどちらも成り立たないのなら比較ができないということである。
2つ目の反射性は自明である。
3つ目の推移性は、強引な表現をするなら とすることができるということである。視覚化した場合に、に含まれるすべての , , を一直線上に配置することができるともいえる。
効用関数
選好関係を、財を消費することによって得られる主観的な満足や欲望の充足(効用)として実数値に置き換える関数を効用関数(utility function)と呼ぶ。効用関数は実数値であるため等号不等号によって比較することができる。
選好関係 なら、効用関数は と表現できる。
効用関数はより好ましいものほど大きな数字を持つように割り当てられ、選好関係を見やすく表現できる。ただし、選好を表現しているわけだから、上述した順序づけできる条件を満たしている必要がある。
また、効用関数は、効用の絶対的な大きさを表すものではなく、比較によって大小を表す相対的なものである。こうした考え方は序数的効用と呼ばれる。