刺激性制御

刺激の微妙な変化によって違う反応を示すこともあれば、同じ反応を示すこともある。このような刺激と反応の関係性を明らかにしようとする研究は刺激性制御と呼ばれる。刺激性制御は、古典的条件づけとオペラント条件づけともに現れる般化と弁別の研究ともいえる。


弁別

特定の刺激には特定の反応を示すが、類似する刺激には同じ反応を示さないとき刺激を弁別しているといえる。しかし、日常生活においては同じ刺激でも別の反応を示すこともある。これは、時間や場所あるいは文脈といった別の刺激が弁別刺激として働いている。何が弁別刺激となっているかは実際に調べてみなければわからないことも多いのである。

弁別行動の基礎的研究の多くは動物によって行われている。そのときに用いられる代表的な手続きには継時弁別訓練と同時弁別訓練がある。

継時弁別訓練

継時弁別訓練は、VIスケジュール(変動時隔スケジュール)と消去からなる多元スケジュールが用いられる。特定の刺激が呈示されているときはVIスケジュールによって反応が強化され、別の刺激が呈示されているときの反応は強化されず消去が行われる。このとき、反応が強化される刺激は正刺激、反応が消去される刺激は負刺激と呼ばれる。この訓練によって、正刺激には反応し負刺激には反応しないという弁別が完成する。

行動対比

2つの刺激に対する反応をVIスケジュールで同等に十分に強化した後、一方の刺激はそのまま強化し、もう一方の刺激は反応を消去する継時弁別訓練を行う。すると、消去が行われる刺激への反応は徐々に減少し、そのまま強化されている刺激への反応は増加する。そのまま強化が行われた方は、強化スケジュールは変化していないので、一方の反応が消去されたことによるものである。この現象は行動対比と呼ばれている。

行動対比の現象は大きく分けると2種類あり、上記のように一方の反応が消去されるともう一方の反応が増加する現象は、正の行動対比と呼ばれる。もう1種類は、一方の反応への強化子が増えるあるいは強化比率が増加すると、もう一方の反応が減少するもので、負の行動対比と呼ばれる。

なぜ行動対比が起こるのかについてはいくつかの理論が提示されているが、ウィリアムスは行動対比には複数の異なる原因があり、どの単一の理論もすべてを説明することはできないとしている。

無誤弁別学習

通常の継時弁別訓練では、訓練終了までの間にいくつもの弁別の誤りが生じる。反応したにも関わらず強化が行われないことは、実験対象にとっては嫌悪的なものとなる可能性がある。実際にハトの場合は、威嚇行動や攻撃行動をとることが知られている。また、何ヶ月もの訓練でも、通常は弁別が完全なものとはならず、負刺激に対してバーストと呼ばれる反応の爆発が起こってしまう。

テラスは、この負刺激に対する反応の誤りがほとんど、あるいは全く起こらない方法を提案し、無誤弁別学習と名づけた。

テラスの方法は、訓練の早い段階で負刺激を導入するが、最初は確実に反応しないであろう弱く短い刺激を用いて、徐々に強く長い刺激へと変更していく。これによって、負刺激への誤反応が生じないままハトは弁別を完成した。

同時弁別訓練

複数の刺激が同時に呈示され、並列的に強化スケジュールが同時進行するものは、並立強化スケジュールと呼ばれる。

マッチングの法則

ハーンスタインは、異なる光が照射される2つの反応キーと、穀物が強化子として呈示される開口部があるハト用の実験箱を用いた実験を行なっている。2つの反応キーは異なるVIスケジュールが同時に進行する並立強化スケジュールが用いられた。

すると、それぞれの反応キーの強化子が呈示される割合と、そのキーにハトが反応する割合がほぼ一致することがわかった。例えば、VI 135秒スケジュールとVI 270秒スケジュールの場合の反応の比率はおよそ 2:1 になる。

別の実験でも強化子の割合と反応する割合が一致することが確かめられており、これはマッチングの法則、または対応法則と呼ばれている。この法則はハト以外の動物やヒトでも確認されている。

般化

ある刺激に対して特定の反応を学習すると、類似する刺激に対しても同じ反応を示すことがある。これは刺激般化、あるいは単に般化と呼ばれる。

般化勾配

特定の刺激に対して十分に反応するようになった後で、その刺激の特定の次元を変化させると反応の比率も変化する。刺激の次元とは、光であれば波長や明暗など、音であれば音の高さや大きさなどである。このとき、横軸に刺激の次元、縦軸に反応数をとったグラフを描くと、逆U字形あるいは釣り鐘型の図形が得られる。これは般化勾配と呼ばれる。通常は最初に強化された刺激の次元でもっとも反応数が多くなり、次元の変化が大きくなるにつれ反応数は少なくなる。

般化勾配は弁別訓練後にも見られ、これらはとくに弁別後般化勾配と呼ばれている。弁別後般化勾配は、単一刺激での訓練によって得られた般化勾配に比べて傾斜が急になり、頂点はより高い値を示す。

般化勾配の形成後でも弁別訓練を行うと、その位置や形状は変化する。

移調

ケーラーは、般化勾配が横軸に水平移動する移調という現象を見いだしている。

ケーラーは、ニワトリに暗い灰色と明るい灰色を同時に呈示し、明るい灰色に反応するように同時弁別訓練を行った。その後に、反応するようになった明るい灰色ともっと明るい灰色を呈示し、どちらが選択されるかテストを行った。すると訓練されていないもっと明るい灰色により反応することが示された。つまり、明るい灰色を頂点とする般化勾配が、もっと明るい灰色を頂点とする般化勾配へと移調したのである。

これはニワトリが、絶対的な尺度で刺激を見ているのではなく、同時に呈示される2つの刺激の関係性を見ていることを示している。

頂点移動

移調と類似している現象として頂点移動と呼ばれる現象がある。移調との違いは、移調は同時弁別訓練で見いだされるのに対して、頂点移動は継時弁別訓練によって見いだされることである。

ハンソンの実験では、統制群のハトに550nmの波長の光が照射されるキーへのつつき反応を、VIスケジュールによって強化し、実験群のハトには550nmの光キーを正刺激、555nmの光キーを負刺激として継時弁別訓練を行った。その結果、統制群では550nmを頂点とする般化勾配を得られたのに対し、実験群では530〜540nm付近が頂点となり550nmではごく少ない反応しかみられなかった。

頂点移動は上記のような色の違いだけではなく、他の刺激次元でも観察されており、またヒトを含む多くの動物でも見いだされている。


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