古典的条件づけの理論

刺激置換理論

古典的条件づけに関する最初の理論は、パブロフの「CS(条件刺激)がUS(無条件刺激)の代わりになる」という現在では刺激置換理論、または刺激置換説と呼ばれているものである。

無条件刺激の代わりになるという考え方には幾つかの疑問が残る。CR(条件反応)はUR(無条件反応)の単純なコピーではないということである(標準的な手法ー眼瞼条件づけ参照)。URに含まれている反応の一部がCRには含まれていない場合もあれば、逆にURに含まれていない反応がCRに含まれている場合もある。

刺激置換理論の最も大きな問題は、条件によってはCSがUSとは逆の反応を示すということである。モルモットを用いた実験では、モルモットに電気ショックを与えると心拍数の増加が見られるが、対にされたCSでは心拍数の減少が確認されている。URとは反対の条件反応は条件性補償反応と呼ばれる。

これらだけで刺激置換理論のすべてを否定することにはならないが、理論としては少なくとも別のプロセスも必要となるのは明らかである。


レスコーラ=ワグナーモデル

古典的条件づけの最も有名な理論のひとつで、多くの条件づけの現象を説明できる数理モデルである。まずレスコーラ=ワグナーモデルの数式を示す。

ΔV=α(λーΣV)

α(アルファ)はCSが実験対象にとって気付きやすいほど1に近くなり、気付きにくいほど0に近くなる。つまりCSが呈示されなければ0となり連合強度に変化はなく(ΔV=0)、CSが強力であるほど連合強度の変化量が大きくなる。これは「CSの強度が高いほど早い条件づけを示す」という特徴と一致する。

次にλ(ラムダ)ーΣV(シグマV)であるが、USの強度とこれまでに獲得しているCSの連合強度の差が大きいほど、獲得する連合強度の変化量も大きいことを表している。λは「USの強度が高いほど早い条件づけを示す」「USが呈示されなければ、CRは強化されない、あるいは消去に向かう」「USの強度によって漸近値が異なる」という特徴と一致する。

レスコーラ=ワグナーモデルは、隠蔽や阻止などの複合条件づけにおける現象も説明できる。

隠蔽

パブロフは強い音と弱い光の2つのCSを同時に呈示した後にUSを呈示する複合条件づけにおいて、隠蔽という現象を発見している。

複合条件づけを行なった後に2つのCSを別々にテストすると、強い音CSには強いCRが見られたが、弱い光CSにはほとんどCRは見られなかった。

レスコーラ=ワグナーモデルに当てはめると、まず強いCSは弱いCSよりも条件づけは早い。そしてUSによって連合強度の最大値は決まっているので、CSの連合強度の総和が最大値まで条件づけされる頃には、強いCSの連合強度と弱いCSの連合強度には大きな差ができる。よって、強いCSには強いCRを示し、弱いCSには弱いCRしか見られないという隠蔽が起こるのである。

また、2つのCSの強度が同程度の場合には、互いに相手を隠蔽する相互隠蔽という現象が起こる。これも上記と同じように説明されるが、要するにCSの数が増えれば、CSひとつ当たりに割り当てられる連合強度は小さくなるということである。

阻止

ケイミンらは複合条件づけにおいて、阻止またはブロッキングと呼ばれる現象を発見している。

ケイミンらはまず、音と光の複合刺激をUSとなる電気ショックと対呈示した後、2つのCSを別々にテストして、どちらのCSもCRを誘発することを確認している。

この複合条件づけを行う前に、どちらか一方のCSをUSと対呈示しておくと、複合条件づけの後のテストでは、もう一方のCSはCRがほとんど見られなかった。つまり、最初にUSと対呈示したCSがもう一方のCSをブロックしたのである。

これをレスコーラ=ワグナーモデルに当てはめると、まず一方のCSとUSの対呈示によって条件づけが形成されるが、この時点で連合強度は最大値に達するので、その後に2つのCSとUSの対呈示を行なっても、もう一方のCSに割り当てられる連合強度は残っていないのである。よって、最初に条件づけられたCSがもう一方のCSに対する反応をブロックするのである。

過剰予期効果

レスコーラ=ワグナーモデルは、これまで発見されていなかった新たな現象である過剰予期効果を予測し、実証されている。

2つのCSをそれぞれ独立してUSと対呈示を行い条件づけする。そして実験群と統制群に分けて、実験群にだけ2つのCSによる複合条件づけを行なった後、2つのCSを別々にテストすると、統制群に比べて実験群のCRは減少する。

これは、2つのCSが個別にUSと条件づけされることで、2つのCSの総和がUSの連合強度の最大値の2倍になる。その後に複合条件づけを行えば、USが2倍呈示されるという過剰な予測が起こるため、CSの連合強度は弱くなるのである。

レスコーラ=ワグナーモデルで説明できない現象

この理論は古典的条件づけにおけるさまざまな現象を予測できる素晴らしい理論であることは間違いないが、説明がつかない現象もいくつか存在する。

レスコーラ=ワグナーモデルは「第1試行においては、USが呈示されなければ何の学習も起こらない」ことを示している。しかし、感性予備条件づけでは明らかにCSとCSの連合が生じている。

また、CSとUSの条件づけを行う前に、先行してCSだけを繰り返し呈示しておくと、CSを先行呈示した群は、先行呈示しなかった群に比べて条件づけが遅いのである。これはCS先行呈示効果と呼ばれる。

上記の例から、レスコーラ=ワグナーモデルは「USとCS(複合CS)の連合を扱うモデル」であり「それ以外の連合は扱わないモデル」といえる。これはレスコーラとワグナーが、複合条件づけにおける阻止の現象を説明する理論が必要であると感じていたことと関係しているように思われる。

マッキントッシュの注意理論

レスコーラ=ワグナーモデルでは、CSの明瞭度は刺激の物理的強度に依存するため学習によって変化しないものと考えていたが、マッキントッシュの注意理論やピアス=ホールモデルでは実験対象がCSに対して向ける注意量として捉えている。つまり、学習の進展によってCSに対する明瞭度も変化すると考えた。

マッキントッシュの注意理論で複合条件づけにおける阻止の現象を考えてみると、まずCSとUSの対呈示が繰り返されるとCSの後にUSが呈示されることを学習するため、CSに対する注意が高まる。その後に最初のCSと新たなCSで複合条件づけを行うが、最初のCSに注意が向かい、新たなCSには注意が向かないため、新たなCSでは条件づけが形成されにくいというわけである。

注意理論ではCS先行呈示効果も簡単に説明できる。CSだけの単独呈示を繰り返すと、変化がない、つまりUSが呈示されないことを学習するので、CSに対する注意が低下する。その後でCSとUSの対呈示を行なっても、最初の時点でCSに対する注意が低下しているので条件づけが遅れるというわけである。

ただし、感性予備条件づけは説明ができない。

コンパレータ理論

レスコーラ=ワグナーモデルと注意理論はいくつかの点で共通しているが、その根底には「連合強度の獲得時に刺激間競合が起こる」という仮定がある。現在ではこのような理論は獲得モデルと呼ばれることもある。

一方、刺激間競合は連合強度の獲得時ではなく反応時に起こると考えるのはコンパレータ理論と呼ばれ、獲得モデルに対抗して反応モデルと呼ばれることもある。

複合条件づけにおける阻止の現象をコンパレータ理論で考えてみると、まずCSとUSの対呈示によってCSの連合強度は増加する。そして最初のCSと新たなCSで複合条件づけが行われるが、ここでは両方のCSで連合強度の増加が生じる。テスト段階で新たなCSでのCRが小さいのは、新たなCSが呈示されたときに最初のCSの連合強度と比較が行われるからである。つまり、CRの強さは呈示された刺激と比較刺激との連合強度の差に依存するのである。

「CRの強さは、呈示されたCSが獲得している連合強度だけで決まるわけではない」ことを示す分かりやすい実験がある。USが毎回呈示されるCSと、50%の確率でUSが呈示される第2のCSで条件づけを行うと、第2のCSでは強いCRは誘発されない。しかし、最初のCSを消去すると第2のCSでのCRは劇的に増加する。

これは獲得モデルでは説明できない現象である。近年ではコンパレータ理論を指示する研究が増えているが、単純な条件づけにおいては獲得モデルの方が説得力がある。

2次条件づけにおいては、解釈の仕方によって獲得モデルで説明できるとする心理学者もいるが、コンパレータ理論では難しい。現時点ではどの理論も一長一短であるといえる。

条件反応と相反過程理論

UR(無条件反応)とは逆の反応を示すCR(条件反応)は補償条件反応または条件性補償反応と呼ばれる。この補償条件反応を説明するために相反過程理論を用いた試みがいくつかある。なお、相反過程理論については「馴化」のページを参照。

薬物耐性

薬物を繰り返し使用することで薬の効果が薄れていくことは耐性と呼ばれ、一般的には体内で薬物を処理する機能が発達し、代謝に変化が生じるためと考えられている。相反過程理論においても、b過程の変化とは代謝の変化であると解釈できる。しかしシーゲルは古典的条件づけに基づいた異なる視点で耐性を説明している。

シーゲルらはラットを被験体として、モルヒネ投与時に視聴覚刺激をともなわせ、鎮痛効果によって耐性を測定する実験を行なっている。鎮痛効果はラットを熱した金属板上に乗せたときの足なめなどの反応潜時を記録するホットプレートテストで測定している。

試行を重ねるにつれ鎮痛効果は失われていったが、視聴覚刺激の呈示をやめると初めてモルヒネを投与されたときと同等の鎮痛効果が見られたのである。これは薬物の投与だけが耐性に影響しているわけではないことを示している。

また、ロジンらはカフェインと唾液量に関する実験を行っている。カフェインは一般的に唾液の分泌量を増加させるが、習慣的にコーヒーを飲む人はカフェインの摂取による唾液量の増加は少量であることが知られている。そこで、習慣的にコーヒーを飲む人にカフェイン抜きのコーヒー(実験対象には伝えず)を飲んでもらうと、実験対象の唾液量は減少していた。また、カフェイン入りの別の飲み物を飲んでもらうと、唾液の分泌量は増加した。これは、コーヒーが視覚刺激あるいは嗅覚刺激として条件刺激となり、補償条件反応である唾液の減少を誘発させていることを示している。

補償条件反応はアルコールや他の薬物でも観察されており、これらの実験から、摂取する環境や時間などの文脈が条件刺激となり補償条件反応を誘発させると考えられている。

条件性相反過程理論

シュルは相反過程理論にわずかな仮定を付け加えることで、補償条件反応を説明できることを示している。これは条件性相反過程理論または条件づけられた相反過程理論と呼ばれる。

条件性相反過程理論ではb過程の増大は、a過程を引き起こす刺激を繰り返し与えたことによるものではなく、a過程を引き起こす刺激となんらかのCS(条件刺激)が対呈示されることで起こるとしている。

SOP理論

SOPは「Standard Operating Procedure」の略であり、「動物行動の自動的記憶処理に関するモデル」として発表されている。SOP理論は、ある場合ではURと反対のCRが生起することを予測することから「sometimes opponent process」の略とも言われる。

SOP理論では結果として、相反過程理論でのb過程が観察されない場合には単相性の形をとるためURとCRは同じ方向性を示すものとなり、b過程が観察される場合には二相性の形をとるためCRはURとは反対のものとなることを予測する。

ワグナーとブランドンはSOP理論の改訂版としてAESOP理論を発表している。いずれにしても、これらの理論は広範囲な現象を説明できるものの、内容は複雑化してきている。


参考書籍
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